※冒頭でいきなり訂正させていただきます。以下の記事で「暫定クリタケ」と記述しているのはナラタケの仲間ではないかとの指摘を複数の方からいただきました。ありがたいことです。得体のしれない怪しいキノコを見つけて採って食べてみた記録としてお読みいただければ幸いです。げに恐ろしキノコの世界。毒キノコでなくてよかったです。
■茶キノコと白キノコを採ってきた
2022年10月某日、某尾根の名もない支尾根で茶色いクリタケ(推定)と白いマスタケ(推定)を見つけました。
いま思えば生えている様子を撮影しておけばよかったんですが、記録を取るつもりのない尾根歩きだったのでいつもザックのウエストベルトポケットに入れているデジカメは持っていませんでした。ザックからスマホを引っ張り出すのも面倒だったので収穫時の写真は撮らずじまいです。ちょっと残念。
茶キノコはとても大きな朽ちかけた倒木の切株(多分ミズナラ)の周りに畳半分の半分くらいの広さでブワーッと生えていました。キノコは根元でくっついて束になって生えていて(束生と呼ぶらしい)ベリっと引きはがすように採りました。
白キノコはミズナラの大木の胸くらいの高さに密生していました。サルノコシカケなのかなと思ったんですが、柔らかいし微かに芳香があってなんか違います。扇状のキノコを押し上げたか押し下げたか忘れましたが、どちらかはなかなかはがれず、どちらかでかんたんに木からはがれました。
茶キノコ、白キノコともに着替えやゴミ用のビニール袋に8分目ほど採って持ち帰ることに。食べられるかどうかわからないし、意外に重いキノコをどうして持ち帰る気になったのか、自分でもちょっと不思議です。
■食べられるのか? 必死に調査
10以上のWebサイトや動画を閲覧し、近所の図書館にあるキノコの図鑑をすべて(といっても4冊だけど)借りてきて何百という写真やイラストを現物と突き合わせ、キノコの同定に心血を注ぎました。必死です。文字通り命がけです。
結果、茶色いのはクリタケ、白いのはマスタケだと確信を得ました、と言うにはほど遠く、十中八九そうなんだろうけど、けど違うかも、けどやっぱり間違いないはず、うーん、そーは言っても、、、みたいな感じ。
該当しそうな何十種類ものキノコをモニターや紙面で見ながら、採ってきたキノコの食べられるキノコに似たところを懸命に探していることにふと気付きました。これは危険です。冷静な観察者の目で見ないと命にかかわります。けれどもやはり「このトラバース(山腹水平移動)にはのっぺり道はないはず」「あの岩崖には巻道があるはず」「うちの子はやればできる」「年内にあと2、3本は仕事が入るはず」みたいなまったく根拠のない楽観に同定作業は流れがちです。そんな自分を戒めながらたどりついた仮説が、茶色いのはクリタケ、白いのはマスタケ、です。
■座学から実技へ。ニガクリタケだったらアウト。コレラタケでもアウト。
クリタケにとてもよく似たニガクリタケは猛毒らしく、厚生労働省のWebサイトによると毒成分は「カルモジュリン阻害活性を持つファシキュロ-ル、ファシキュリン酸の他、ムスカリン類」といったなんだかわからないけれどあなどれない雰囲気。ニガクリタケを食べてしまうと3時間程度で強い腹痛、激しい嘔吐、下痢、悪寒などの症状が現れるらしい。さらに重症の場合は脱水症状、アシドーシス、痙攣、ショックなどの症状が現れて死亡する場合がある、と記載されています。
見た目はニガクリタケは黄色っぽく、クリタケは茶色っぽい、という違いがあり、また、幸い、かどうか、ニガクリタケは名詮自性、その名前の通りとんでもなく苦いらしいです。
採ってきた茶キノコは黄色っぽくはありません。どう見ても茶色です。この点はセーフでしょう。
と、ここまでは座学。ここからは実技です。先達がやってきたことを現代人のわたくしが改めて身をもって体験するわけです。
暫定クリタケの傘を少しちぎって食べてみます(冒頭の写真の傘が欠けた部分)。
万が一というか、百が一くらいじゃないかなと思いつつ、すぐに吐き出せる準備をしておいて、かじってみます。かんでみます。1回、2回、3回、4回、うーん、キノコらしい風味は感じます。5回、6回、7回。苦くはない、と思うんですが、どうもよくわかりません。それはそうです。生まれてこのかた、ニガクリタケなんて食べたことないんですから。
結局、傘の1cm四方くらいを飲み込みました。少ーしエグ味を感じるんですが苦味とは違います。セーフ、だと思うんですが、飲み込みながら図鑑をパラパラとめくっていると採ってきた茶キノコは致命的な猛毒をもつコレラタケに似てなくもありません。根拠のない楽観と深ーい疑心暗鬼が交互に大波を打って押し寄せます。ドキドキします。
コレラタケはかつてはドクアジロガサという名前だったけれど、覚えにくく猛毒菌の印象が弱いなどの理由からコレラタケと改名されたらしい。食後6〜24時間でコレラに似た激しい下痢や嘔吐が始まって最悪の場合、死に至るというとんでもないキノコです。
うーん。ぱっと見は似ていると言えば似てるんですが、じっくり見比べると傘や柄がかなり違っています。素人の私見なので詳しくは書きませんが「これはコレラタケではありません!」と力強く言える違いがありました。
結局、いろいろな料理でかなりの量の茶キノコを食べたんですが、1週間以上なにもおこらないので少なくともニガクリタケでもコレラタケでもなかったんだと思います。でもクリタケなのかどうかは不明なままです。
■白キノコの正体
白キノコに似た毒キノコも食べられるキノコもなく、十中八九、マスタケだと確証(ほぼ、だけれども)を得ました。ただ、『持ち歩き図鑑 おいしいきのこ毒きのこ』によるとマスタケには針葉樹型と広葉樹型があって針葉樹型は「黄色みの強いマスタケはよい香り」、広葉樹型は「ほこりくさくて白っぽい」と記載されています。採ってきた白キノコはミズナラに生えていたので広葉樹型。。。おいしくなさそう。
食べ方はフライや天ぷら、味噌漬けなんかがよく、味と食感は鶏肉みたいらしい。けれどもこれはおそらく針葉樹型の話ですよね。まっ、個体差でとんでもなくおいしい広葉樹型に育っているかもしれません。まずはフライで食べてみることにしました。
■そしてついに実食
マッシュルールなど一部のキノコを除いてキノコの生食は中毒を起こす危険があるようです。飲食店でキノコの刺身というメニューがありますが、完全な生ではなく、熱が加えられているようです。そりゃそうですよね、危ないったらありゃしません。
暫定クリタケと暫定マスタケでいろいろつくって食べてみました。
■暫定クリタケ
■暫定マスタケ
■茶キノコはまた見つけたら採るけれど
暫定クリタケは見つけたら迷わずまた採ります。おいしいキノコです。暫定マスタケは微妙。まずくはないけれどまた食べたいかと問われればそーとー悩みます。そんなに悩むなら食べるなよ、とゆーとこに落ち着きます。
■マイタケも見つけて採って食べました
暫定クリタケと暫定マスタケを見つける少し前の10月某日、某尾根の急降下の途中で「下ってきて」などとつぶやきながら急勾配の上に向かってカメラを構えて撮影して振り返ると、なんと足元にマイタケ生えていました。ミズナラの大木の太い根に貼り付くように小さな株が2つ。おいしくいただきました。
※この記事は『奥多摩トラバース』運営者の徹底的に個人的な体験や観察、意見です。くれぐれも鵜呑みにしないでください。