「位置」の大親分「日本経緯度原点」に会って三角点の誤解を3つ解く【後編】

スポンサーリンク
鷹ノ巣山の二等三角点 奥多摩じゃない山など
鷹ノ巣山の二等三角点

現代の最新測量についてちょっとだけ知ったこと

三角測量が実施されたのは明治から昭和までで、1970年代に光などを利用して距離を測る測量機器が開発されてからは三辺測量になったそう。角度を測るより長さを測るほうが正確だったりラクだったりするんでしょうか。三辺測量は主に一~三等三角点の改測(再測量)に使用されたんですが、実は三辺測量も過去の手法。現在はトータルステーション(1台で距離と角度を精密に測定できる機器)という装置を使った多角測量方式が主流だそう。既知のポイントから次のポイントを決定し、そこから次のポイントへさらに次へ次へと決定していくトラバース測量とも呼ばれる測量方式らしいんですが、わかるようなわからないような。
尾根上で測量用らしき樹脂や木の杭をよく見かけますが、トラバース測量で境界なんかを測定、決定しているんでしょうか。尾根上のトラバース、不思議です。
さらにはドローンにカメラやレーザー発振器を積んで上空から地形や構造物を測量するドローン測量も行われています。地上での測量と航空機を使った測量の中間的な測量で、それほど広範囲ではなく、地上で人が測定するにはデンジャラスだったり凸凹が多かったり複雑な地形なら労力も時間もコストも削減できるらしいです。

トータルステーション

トータルステーション(左)と測量風景。気になるお値段は数十万円からとさすがに高価。すんごい機能が付いたトータルステーションは400万円以上するみたい。一家に1台、なわけないか。でも、ブルドーザーやショベルカーなんかの重機のようにレンタルがあります。[国土地理院]

宇宙測量技術
現在は、先述したVLBIやGNSSといった天体からの電波や測位衛星を活用して「位置」をそうとうかなり正確に測量できる宇宙測量技術が確立されています。そんななかで電子基準点(GNSS連続観測点)という測位衛星からの電波を受信して地上の位置をcm単位で、しかもほぼリアルタイムで測定できる基準点がこれからの測量の要になるそう。
電子基準点はすでに南北は沖ノ鳥島(東小島)から稚内、東西は南鳥島から与那国島まで、20kmほどの間隔で全国に約1300か所、設置されています。

電子基準点

電子基準点。「地図と測量の科学館」の「地球ひろば」に設置されているものです。基準点名は「つくば3」。ステンレス製で高さは約5m。てっぺんの丸い部分にアンテナが格納されています。床の間や園庭に据えて愛でていたい工芸品みたいな標石とはずいぶん趣が異なります。

電子基準点

右の鉛筆形の構造物が2018年3月、日本水準原点に隣接して都心ではじめて設置された電子基準点。基準点名は「東京千代田」。2024年5月22日、「日本水準原点」が一般公開された日に撮影。

東京千代田

(左)「東京千代田」の横っ腹がパカッと開けられていました。GNSS受信機やバッテリー、通信装置、傾斜計なんかが格納されています。温度を一定に保つ(27℃だったかな。係員にお聞きしたんですが忘れました)仕組みもあって温度が上がるとファンが回ります。
(右)電子基準点の基礎に設置されている電子基準点付属標。「東京千代田」の付属標の基準点名は「東京千代田(付)」。「東京千代田」の標高は30.300m、「東京千代田(付)」の標高は23.372m。この6.928mの標高差がほぼ「東京千代田」の高さです。

電子基準点

(左)富士山の電子基準点。2002年9月に設置されました。基準点名は「富士山」。風雪に耐えられるように高さは約3mとやや低めですが標高は3777.41mあります。当たり前ですが、富士山の標高3776mが変更されることはありませんでした。足元に電子基準点付属標が設置されています。
(右上)沖ノ鳥島の電子基準点。なんともSFチックな風貌です。2005年6月に東京から約1700km、日本最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)に設置されました。基準点名は「沖ノ鳥島」。腐食に強いチタン製の高さ50cm、直径2.3mの円盤の形の防護ネットで覆われていて内部には観測機器、通信機器、電源を確保するため太陽光発電システムを装備しています。
(右下)南鳥島の電子基準点。2002年12月に設置されました。基準点名は「南鳥島」。日本の最東端の電子基準点です。日本で唯一、太平洋プレート上にある南鳥島の観測データはプレート運動を解明するための貴重な資料となっているそう。[国土地理院]

GNSS測量

2024年1月1日に発生した能登半島地震による地殻変動を測定するため国土地理院は1月20日〜21日に現地測量を実施しました。上の写真は石川県輪島市門前町の三等三角点「五十洲(いざす)」でのGNSS測量。三等三角点の上に設置したGNSS測量機で測位衛星からの電波を受信し、4.10mの隆起、西向きに1.48mの移動が観測されました。[国土地理院]

「日本水準原点」や「日本経緯度原点」の日本の「高さ」と「位置」の基準から日本全国に派生した約1万6000点の水準点と約10万点の三角点によって地図がつくられてきました。地図とともに日本のかたちがつくられてきたともいえます。
明治期からの三角測量は測量技術や測量機器の発展で現代では宇宙測量技術まで到達しています。
宇宙測量技術を利用する電子基準点では「高さ」と「位置」をいっぺんに測定することが可能です。だからといって水準点や三角点は用無し、とはなりません。道路をつくったりビルを建てたり橋を架けたりトンネルを掘ったりするには水準点や三角点の緻密な基準点のネットワークが必要不可欠です。

この記事は三角点を中心にした「位置」の話のはずだったんですが、だらだらと長く、電子基準点などの宇宙測量技術に触れて「高さ」の領域にも踏み入ることになりました。
ようやく終わります。

2025(令和7)年4月1日に標高が変わる
しつこいですがこれで最後です。さらに「高さ」の話です。2025年4月1日に日本の標高が改定されるそう。「長年の地殻変動で累積した標高成果のズレや、水準測量の距離によって累積していた誤差等を解消するため、国土地理院で管理する電子基準点、三角点、水準点等の基準点の標高成果について、令和7年4月1日に衛星測位を基盤とする最新の値に改定します」と国土地理院のWebサイトで報じられました。つまり、2025年4月1日をもって日本全国の標高がせーので変わるということ。ちょっとした、いや、かなりのイベントなのかもしれません。
国土地理院の試算では奥多摩の山域ではほぼ現状のままだけれども秩父なんかでは5cmくらい標高が下がる場所がありそう。まっ、標高が低くなったからって尾根歩きがラクになるわけはないけれど。
本当にようやく終わります。

※この記事を書くにあたって『「高さ」の大親分「日本水準原点」に会ってきた』同様、めちゃくちゃたくさんの書籍やネット情報を参考にさせていただきました。紹介しきれないのでこの一文でご容赦ください。ありがとうございます。
「地図と測量の科学館」で説明をしてくださった係員のみなさんに感謝します。

そして最後までお読みいただいたみなさんに感謝します。

タイトルとURLをコピーしました