64歳「青春18きっぷ」地獄の高知行き【後編】

スポンサーリンク
64歳「青春18きっぷ」地獄の高知行き【後編】 奥多摩じゃない山など

「青春18きっぷ」2日目に突入

おはようございます。4時ちょっとに起床。ココロもカラダも非日常な状況にコーフン気味なのか、よく眠れたようなちっとも眠れなかったような、なんともスッキリしない寝起きです。宇多津駅まで歩く時間を計算しても余裕があったのでフリードリンクコーナーで「紅茶花伝セイロン」「コーンスープ」を飲んで、また「紅茶花伝セイロン」を飲みました。ゆっくり出発の支度をして会計へ。滞在時間によっていちばん安いパック料金を勝手に選んでくれるらしい。60歳以上には10%引きになる「シニア割」があるんですが、20%引きになる「学割」を申請。わたくしには放送大学教養学部の学生という身分があるので学生証をビシッと提示しました。残念ながら「シニア割」との合算はできなそう(後で気がついたんですが両方の割引が適用されていました。うれしいです)。欲張りか。
昨夜歩いた道を思い出しながらまだ暗い宇多津の町を駅に向かいます。大きな道路沿いに歩くんですが人も車もほとんど通らずひっそりとしています。
宇多津駅で「青春18きっぷ」をビシッと駅係員に渡そうと思ったんですが、改札口横の窓にはカーテンがかかっていて人の気配はありません。ローカル線の始発時刻はこんなものなのでしょうか。移動日の最初に乗る駅で切符にハンコをもらうのがセオリーのはずだけれども、ハンコを捺すのは駅係員の仕事なわけで、わたくしにはどうしようもありません。無人の改札を抜け、ホームに上がりました。5時19分発のJR予讃線・高松行を待ちます。

秘技「ワープ」で時空をひとっ飛び

宇多津駅から高松行きに乗り、坂出駅で下車。宇多津駅から目的地の高知駅へは阿波池田方面が順当な進路なんですが、坂出駅は逆方向です。わざわざ逆方向に進んだ理由は坂出駅からJR特急しまんと1号・中村行に乗るためです。【前編】で述べたとおり「青春18きっぷ」で新幹線や特急、急行に乗ることはできません。特急料金や急行料金を払えばいい、というわけでもなく、乗車区間の運賃も払わなくてはなりません。そうなんです。特急や急行に乗る時点で「青春18きっぷ」人は普通人になってしまうんです。そんな屈辱を受けながらも特急に乗ることにしたのは、高知市で開かれる日曜市のためです。
日曜市は高知県内から主に農産物がドサッと集まる市です。300年以上の歴史があると言われ、高知城下の道路に1kmにわたってテントがけの店がずらりと並びます。農家がつくった自慢のこんにゃくや餅、押し寿司、パン、土佐刃物、植木、甲冑なんかも売られています。朝の6時くらいから始まり、午後になると多くの店が閉め始めます。できるだけ早い時刻に高知に着きたいんですが、「青春18きっぷ」を持っているがゆえのしがらみがあるわけです。持たざるものにはわからない憂いがあるのです。
早く着きたいのならJR特急しまんと1号・中村行でとっとと高知駅まで乗ればいいんですが、そこはほれ、あれがこーしてあーなるじゃないですか。
宇多津駅から高知駅へは、宇多津駅でJR特急いしづち103号・松山行に乗り、多度津でJR特急しまんと1号・中村行への乗り換えるのが最速のはず。8時18分には高知駅に着きます。乗車券と特急料金で4610円(自由席)。「青春18きっぷ」を持っていなければ素直にこのルートに従えばいいんですが、持つものにしかわからない患苦があるのです。まっ、よーは1円でも安く1分でも早く高知駅に着きたいという欲望に絡めとられているだけなんですけどね。1円でも安く1分でも早くという複雑怪奇(でもないか)な知恵の輪を解くために「Yahoo!路線情報」の「乗換案内」をあーだこーだとひねくり回しました。
たどり着いた解は、まず「青春18きっぷ」で宇多津駅から坂出駅に行き、坂出駅の改札を出てJR特急しまんと1号・中村行の切符を阿波池田駅まで購入(乗車券と特急料金で2440円。車内でも買えたのかな?)、でもってまた「青春18きっぷ」を握りしめて阿波池田駅でJR土讃線・高知行に乗り換えるというルート。高知駅に9時30分ごろ着き、駅から歩いて日曜市には10時前に着くというまずまずのタイムスケジュールです。
「青春18きっぷ」を持っているのに新幹線や特急、急行に乗ることをギョーカイでは「ワープ」と言うらしいです。時間の節約や混雑からの避難、メンドーな乗り継ぎの回避などの理由でワープが行われます。夜行フェリーに乗船するワープもあれば、特定特急料金の合算で距離を稼げる区間では「連続ワープ」が効果がある(サイト『青春18きっぷ研究所』より)、なんていうさっぱり理解できない上級者向けワープもあるようです。「いやぁ、このあいだワープしちゃってさあ」っていつか誰かに言ってみようと思います。やめといたほうがいいかな。よね。
坂出駅で降車。改札を出て特急しまんと1号の乗車券と特急券を券売機で購入し、駅内をちょっとぶらぶら。改札正面のセブン-イレブンはビシッと扉を閉ざし、静かです。駅係員もいません。「青春18きっぷ」も乗車券もなにもしなくていいんでしょうか。自動改札もないんでそのまま改札を抜け、階段を上り、きれいなトイレを借りてホームへ。
坂出駅から飯野山

朝焼けに包まれた坂出駅。ホームから傘というかベレー帽みたいな雲がかかっている山が見えました。帰宅後調べたら飯野山(いいのやま)という山らしい。讃岐富士とも呼ばれ、標高は422m。

坂出駅で特急券と乗車券を購入

坂出駅で特急券と乗車券を購入してワープ中。切符はまっさらです。「青春18きっぷ」もまだきょうのハンコは捺されていません。

ワープを終え、阿波池田駅に降車しました。高知行きの土讃線が発車するまでちょっと時間があるので駅を出てみました。このとき改札で「青春18きっぷ」に無事ハンコが捺され、ようやく胸のつかえが取れました。晴れ晴れです。駅前のしみじみしたアーケード街を覗いたりして駅に戻り、跨線橋を渡って1両編成のワンマン列車に乗り込みました。
列車は律儀に1駅ずつ停まっていきます。高知駅は23駅目、約2時間30分の長旅です。とは言ってもちょうど自宅の最寄り駅から奥多摩駅までの時間です。東日原バス停までは行けない時間なんだと思えばたいしたことはありません。へっちゃらです。吉野川沿いの奇景を眺めていたりすればあっという間、のはずです。もちろん、あっという間というのは言葉のあやというものです。

列車は何十ものトンネルを入っては抜け入っては抜け、四国山地に挑むように疾走し続けます。吉野川から離れ、もう少しで四国山地を抜けるという山間に繁藤(しげとう)という駅があります。この駅で1972年(昭和47)7月5日に繁藤災害と呼ばれる土砂災害が発生しました。前日から降り続いた集中豪雨で駅北の山が崩落し、民家や駅に停車していた高知発高松行き列車を直撃。死者60名を出した大災害でした。繁藤災害の第一報を伝える5日付の『高知新聞』夕刊の一面には「消防団員ら40人生き埋め」の大見出しの下にざっくりと大きくえぐれた山、土砂に押し流された民家や自動車の写真が掲載されました。駅から500mほど高松寄りに繁藤災害慰霊塔や殉職殉難者慰霊像が建てられています。列車からも見えるはずです。

スポンサーリンク

四国山地という難所を越えるとあとは高知平野をひた走ります。地形図で見るとくねくねしながら南下してきた土讃線は後免(ごめん)駅でカクッと右(西)に折れるんですが、列車に乗っているとさっぱり実感できません。踏み跡のめちゃくちゃしっかりした尾根道を何も考えずにたどっている状況と似ていると言えば似てます。いるのかな?

山はすっかり線路から後退し、車窓には1年に2回米を収穫する「二期作」で教科書にも載っていた田んぼがいまは控えめに広がり、やがて民家と田畑がまだらになって、民家が立ち並ぶようになると高知駅に到着です。自宅の最寄り駅から奥多摩駅までよりずーーっと時間がかかった気がします。東日原バス停よりずっと先、小川谷林道の終点広場まで歩いた気分です。

高知駅の改札で「青春18きっぷ」を何度目かのビシッと提示で、林道終点広場とは似ても似つかない高知駅前の広場に立ちました。天気予報は台風の影響で曇だったり雨だったんですが晴れています。かなり暑いです。さすが南国土佐です。

高知駅前

高知駅前の幕末の志士たち。左から武市半平太、坂本龍馬、中岡慎太郎。その右奥にJR高知駅です。青空に夏と秋の雲が同居しています。

いざ、日曜市の雑踏へ

高知駅から日曜市に向かいます。駅前から南へまっすぐ、がっかりする観光地としてそこそこ有名なはりまや橋に向かって歩くと10分ほどで日曜市の東端に着きます(はりまや橋はもうちょっと先)。あっ、そー言えばいったいどこがどーゆーふーに地獄の高知行きだったのかについては一人反省会でそーとーな議論がたたかわされると思うんですが、いまはそれどころではありません。日曜市に急ぎます。
下に日曜市の雰囲気がわかるかもしれない短い動画を掲載しておきます。出店者の高齢化が進み、少しずつ店がなくなっているようですが、「よっちょれ よっちょれ よっちょれよ 高知の城下へ来てみいやー じんばもばんばもよう踊る よう踊る 鳴子両手によう踊る」(『よさこい鳴子踊り』)パワフルな活気が市全体を渦巻いています。
日曜市でいったい何がしたいのか? ズバリ、柚子を絞った100%果汁の瓶詰め、新生姜、にんにくを買いたいのです。前回8月に日曜市に来たとき、目の前で柚子の100%果汁が売り切れて切ない思いをしました。日曜市に着き、最初に見つけた100%果汁を即買い。2合瓶に入って950円。紙ラベルに高知県産<土佐山産>(旧土佐山村)と印刷されています。瓶を新聞紙でくるくる巻いてレジ袋に入れてくれました。常温のまま蓋を開けると果汁が吹き出すことがあるので、冷やしてからゆっくり蓋をあけるように注意がありました。おばあちゃん、ありがとう。これで奥多摩に柚子が出回るまでの柚子需要はバッチグーです。わたくしのお気に入りは手製のおぼろ豆腐に数滴たらす食べ方。柚子の鮮烈な香りがとろりとした豆腐の食感と大豆の風味を深くしみじみと感じさせてくれます。高級料亭の味です(行ったことないけど)。冷酒が合うと思うんですが、まっ、お酒ならなんでもいいでしょ。途中で醤油をたらせば一気に庶民の味です。ご飯が欲しくなります。
新生姜は大きな塊を2つ、にんにくは大ぶりなものを3玉購入。高知からの帰りにザックを担いでひたすら歩く計画(4日後、ひたすら歩きました)があったので控えめな買い物にしました。
日曜市で買ったもの

日曜市で買ったもの。帰宅後1週間ほどして撮影。すでに生姜の3分の2、柚子果汁の5分の1、にんにく1玉を消費。柚子果汁のラベルはスルッと剥がれてしまいました。

ぼうしパン

高知名物(なのかな?)、ぼうしパン。パン屋やスーパーでも売っているんですがでっかいぼうしパンがあったので写真を撮らせてもらいました。子供のころ、パンの裏をほじくって頭にのせて「ぼーしー」って遊んでいたら母親に怒られました。200回くらいは怒られました。ツバのところがやや固く、カステラのような味がしてとてもおいしいです。ぼうしパンを買うときはツバの大きいのを選びます。

甲冑

日曜市には甲冑も売られています。38万円の値札が付いていますが、商品というよりはアイキャッチなのでしょう。確か何年も前から立っています。刀は買ってもらえるそうです。

日曜市の買い物が終わり、いろんな店をひやかしながらぶらぶらしてもホテルのチェックインまではまだまだ時間があります。明日に予定していた墓参りを前倒しにすることにしました。高知駅に戻ります。
土讃線で西へ移動するんですが、やはり「青春18きっぷ」をビシッと改札口で提示。まずは実家に寄り、家の様子をざっと見て回り、日曜市で買ったものやノートパソコンなんかを家にデポ(残置)。お墓に向かいました。実はこのお墓も実家と同じく無人というか無骨です。お墓は見晴らしのいい山の中腹にポツンとあるんですが、歳をとってきた親類にはそこそこの急登が続く山道がキツくなり、近在のお寺にお骨を移しました。誰も足を向けなくなったお墓なんですが、ある事情で所在地を確定させないといけなくなり、今回のお墓参りというか墓地行きとあいなったのです。
スマホGPSをセットして実家を出ました。お墓は放棄された畑の端っこにあります。Googleマップの航空写真でもそれらしきものが見えるんですが、今回の調査で緯度、経度がわかればより正確な場所を確定できるはずです。
お墓

お墓がとんでもないことになっていました。コンクリートの床から墓石のてっぺんまで2m近くあるんですが、墓石のてっぺんをはるかに越えて夏草にビッシリと覆われていました。「いままでこんな尾根歩きなかったよね」などと思いながら草をかき分けてお墓にたどり着きました。奥の山並みの手前に「仁淀ブルー」でちょっと有名な仁淀川が流れています。

墓石が見える程度に草を払い、無骨だけれども、合掌。

2日間にわたるちっとも地獄でもなんでもない「青春18きっぷ」の旅にお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回こそこれぞ地獄という旅をしようと思います。

【本日の移動 宇多津→高知】
宇多津05:19発 JR予讃線・高松行
坂出05:23着 06:18発 JR特急しまんと1号・中村行 2440円
阿波池田07:04着 07:20発 JR土讃線・高知行
高知09:32着
乗車距離:133.4km
所要時間:4時間13分(乗車:3時間12分)
乗換:2回
(泊)高知パレスホテル
お読みいただきありがとうございました
【前編】はこちら
タイトルとURLをコピーしました