「日本経緯度原点」に会ってきた
先だって「高さ」の大親分に会ったんですが今度は「位置」の大親分に会いに行ってきました。
ロシアからアフガニスタンへ
おはようございます。東京メトロ日比谷線神谷町駅2番出口から国道1号を南へ、飯倉交差点で右手に見えるロシア連邦大使館に向かって道路を渡り、大使館の手前を左折。大使館の塀が終わってもずんずん進み、アフガニスタン大使館に突き当たる手前、右手に「日本経緯度原点」が設置されています。
なぜかGoogleマップのストリートビューの画像は大使館の塀が切れたあたりで途切れ、「日本経緯度原点」で復活します。ストリートビューで道順を調べていて気づいたことなんですが、場所柄なんとなく怪しいです。国家(どこの国かわからないけれど)レベルの決して公開してはダメな暗雲立ち込めるなにかがあるんじゃないかとちょっと腰が引けながら「空白地帯」を歩きました。残念ながら素人にはなにも見抜けませんでした。日本にいてはいけない人物が写り込んでいて強大な影の力によって削除された、まっ、そんなところでしょうか。違うかな。
原っぱの「日本経緯度原点」
「日本経緯度原点」は原っぱの中にありました。日本水準原点とは異なり、年中オープンです。Googleマップにも「24時間営業」と記載されています。
広大というわけではありませんがこのエリアの地価を考えるとめちゃくちゃ贅沢な空間です。けれども日本の「位置」の大親分の住処です。当たり前といえば当たり前、不動産開発業者がいくらおカネを積もうとも日本の「位置」の「原点」を買い取ることはできない相談です。
原点そのものは「点」ですが、その「点」を守る土台が想像より大きくて驚きました。大きいばかりでなく、構造も単純ではありません。見える限りは3層ですが、日本水準源と同じく地下はガッチガッチに基礎が固められているのではないでしょうか。
いちばん下の土台は横3.8m、奥行き2.6m。大小12枚の石(おそらく花崗岩)で組まれています。石畳の地面の凹凸には関係なく水平に設置されているはずです。その上に高さ20cmの大小10枚の石が横2.4m、奥行き1.8mに組まれていて、さらにその上に同じ大きさで大小7枚の厚さ10cmの石板が組まれています。3層は水平方向のズレに耐えられるような積み方になっているに違いありません。
いちばん上の7枚の石板に囲まれて90cm四方の黒い石板(おそらく花崗岩)が2枚、1cmほど頭が出るようにはめられていて、左は隷書体で「日本経緯度原点」と彫られ、右はつるんとしています。左右の石板の中間には直径8cmの丸い金属標が埋め込まれています。そしてこの金属標に刻まれた十字の交点が「日本経緯度原点」です。日本の位置という位置がここから決められています。
ここの昔
「日本経緯度原点」のあるこの原っぱは、当時この地にあった東京天文台の敷地の一部だったそう。国土地理院の資料によると1892(明治25)年、参謀本部陸地測量部(後の国土地理院)が子午環という天体の位置を精密に測定できる装置の中心を「日本経緯度原点」と定めました。けれども1923(大正12)年の関東地震で天文台が被災し、子午環も破壊されてしまったんで金属標が設置された、とのこと。資料によって異なりますが、金属標は敷地内で移設されて昭和30年代半ばに現在の位置に設置され、周辺が整備されたようです。
原点方位角とペア
「日本経緯度原点」は「位置」の総元締、大親分なので日本水準原点と同じくその位置は測量法施行令で現在は以下のようにビシッと定められています。
経度 東経:139度44分28秒8869
緯度 北緯:35度39分29秒1572
さらに
原点方位角:32度20分46.209秒
という値も記載されています。原点方位角には「(前号の地点において真北を基準として右回りに測定した茨城県つくば市北郷一番地内つくば超長基線電波干渉計観測点金属標の十字の交点の方位角)」という但書があります。つまり「日本経緯度原点」の金属標の十字の交点から「つくば超長基線電波干渉計観測点」の金属標の十字の交点を見ると真北(しんぽく)から右へ32度20分46.209秒の方向にあります、ということ。どうしてこんな角度が必要なのかいまひとつピンときませんが、要は法で日本の真北を決めました、ということなのかな。
3種類の北
ところで北には真北、磁北、方眼北の3種類あって真北は北極(北極星)の方向、磁北は磁石(コンパス)がさす方向、方眼北は地形図の上方向ということですが、方眼北なんて言葉は知りませんでした。地形図を見て「北」と言っていたのは厳密には方眼北だったようです。とはいえ、真北と方眼北の方向はごくごく等しいので大規模な土地開発なんかじゃなく尾根歩きをしている限りは真北(北)=方眼北で問題ないようです。
「北」と磁北の方向が違うことが山中で道迷いを起こす可能性があることは、読図ハウツー本には必ず書かれていると思います。地形図を入手したらまずコンパスがさす南北に平行な磁北線を適当な間隔で引くんだけれども、北と磁北の角度(偏角)は地域によって異なる、なんてことも指南されるんじゃないでしょうか。けれどもいまアマゾンで「読図 地図 読み方」のキーワードで検索してみたんですが、ここ5年ほどはこのジャンルの書籍の発刊は確認できませんでした。GPSを利用した山歩きが一般化すれば当然のことかもしれません。で、GPSと山歩きの書籍も調べてみると、やはりここ数年は発刊されていませんでした。。。んーー、これはどーゆー結論になるのでしょうか。デジタルのことはデジタル(ネット)に聞け、ということなんでしょうね。
日本経緯度原点の原っぱを後にします。
つくば超長基線電波干渉計観測点を訪ねた
つくば超長基線電波干渉計観測点を見に行ってきました。観測点は黒い矢印のずーーとずーーとずーーと先、茨城県つくば市の国土地理院のお隣りにある「地図と測量の科学館」(月曜日休館 9:30〜16:30 入場無料)の敷地内に設置されています。
地図と測量の科学館
おはようございます。降りただけで賢くなりそうなつくばエクスプレス線の研究学園という駅からバスに乗ろうとしたら東日原行きくらいといったら大げさかな、くらいの便数でした。
15時に東日原バス停に下山してきたくらいにタイミングが合わず「地図と測量の科学館」まで歩くことにしたんですが道を間違えて遠回り。ビシッと区画された住宅街をさまよいコストコの裏をてくてく歩き、本筋の県道にようやく乗って科学館までたどり着きました。
つくば超長基線電波干渉計観測点はすぐ見つかるだろうと思っていましたが甘かったです。広い敷地に散在している面白そうなものを見て回りながら探したんですがまったくわかりません。受付に戻って職員にたずねると職員は別の職員に聞くためにいなくなって待つことしばし。ようやくわかりました。科学館の敷地の右奥(東の端っこ)、つくばVLBI(Very Long Baseline Interferometry 超長基線電波干渉法)観測局という施設の跡地にありました。
VLBIとは国土地理院のWebサイトの説明によると「宇宙のかなたにある天体から届く電波をひろって、2点間(数千km)の距離を数mmの精度で測る技術です。世界各国が協力してこの技術を使って地球の緯度・経度を決めています。国土地理院もこの観測に参加し、日本の位置を決めています」とのこと。つくばVLBI観測局は天体からの電波をキャッチするパラボラアンテナが設置されていた場所です。現在はアンテナは解体され、茨城県石岡市の石岡VLBI観測施設が2016(平成28)年から本格始動し役割を引き継いでいます。
位置決めに君臨するVLBI
VLBI観測局は世界に20数か所あります。同じ天体から放射される電波をいくつかの局のアンテナで受信し、その電波が到達する時間の差や天体の方向を計測するばアンテナ間の距離を知ることができます。この測定を数多くの天体に対して行うことで各アンテナの位置関係がわかり、数千km離れたアンテナの距離も数mmというものすごい精度で測ることができるらしい。
各アンテナの位置関係がわかると常に変化している地球の形を知ることができ、経緯度をビシッと測定できます。また、地球の自転の様子を測って人工衛星や宇宙ロケットの軌道決定に重要なデータを提供したり、プレート運動を監視したり、ブラックホールなんかの構造解明にもVLBIが一役買っているというからとんでもない技術です。
つくば超長基線電波干渉計観測点
つくば超長基線電波干渉計観測点は観測局跡地の短いスロープを上った左手に設置されていました。
雲をつかむような、というか電波をつかむような技術からぐんと地に降りて足元にまじまじと見られる観測点はなんだかホッとします。
2001(平成13)年に測量法が改正されて測量の基準に、地球の実際の形に則した測量の基準である世界測地系を採用することになり、日本経緯度原点の経緯度や原点方位角の数値はVLBIなんかの技術を用いて定められました。さらに2011(平成23)年、東北地方太平洋沖地震の影響による地殻変動が観測されたため、VLBIによる測定によって先述の数値に改定されました。
これにてつくば超長基線電波干渉計観測点の訪問は終了ですが、「地図と測量の科学館」はじつに魅力的な場所です。館内外を歩きまわり、ちっとも飽きない尾根歩きみたいな散策ができました。だってここは地図と測量の総本山です。
三角点や水準点の標石の標本が数十くらい科学館の敷地内のあちらこちらに展示(というかフツーに設置されている風情です)さてれいて、しかもなんの案内もなかったりします。そそられるじゃないですか。ここならビバークしてもOKです。コンビニすぐそこだし。平坦地だらけだし。
これにて【前編】はおしまいとします。長くなってしまいました。
※この記事を書くにあたって『「高さ」の大親分「日本水準原点」に会ってきた』同様、めちゃくちゃたくさんの書籍やネット情報を参考にさせていただきました。紹介しきれないのでこの一文でご容赦ください。
「地図と測量の科学館」で説明をしてくださった係員のみなさんに感謝します。
そして最後までお読みいただいたみなさんに感謝します。
三角点に関しては近日中に投稿する『「位置」の大親分「日本経緯度原点」に会って三角点の誤解を3つ解く【後編】』に記述します。そちらもぜひお読みください。